新宿区 賃貸の真相
現在の日本の住まいが人類史上まれな大散乱状態を呈してしまった根本原因にちがいないのだが、そういう大原因には収束しないさまざまな原因もあって、その辺のことについて物品と収納の両方から考えてみたい。
まず、物品の方から。
欧米の住宅にそう詳しいわけではないが、日本にくらべへンなモノ、いらないモノが少ないように感じられる。
日本のへンなモノ、いらないモノの代表は、お土産や記念品の類で、どうしてあのようなクグラナイものが大量に家に持ち込まれ、保管されなければならないのか。
これには、日本人の(物神崇拝)の長い伝統がきいているように思う。
物品に対し、その性能や美だけでなく、何か精神的、心理的に大事なものが宿っていると考える。
物にカミが宿る。
たとえば、職人は道具にそういう気持ちを持ち、そのことを誇りとしてきた。
特に刃物に対してはそうで、大工の名人上手は、毎日、刃物を使い終わると、きれい、というより清浄に保つことを旨とした。
お針子(裁縫をする人)が使い終わった針を捨てずに、〝針塚″に納めて、仏サマ同然に扱ったのも同じ心情だろう。
調理人たちは〝包丁塚″を作り、文化人はかつて〝筆塚″を作った。
そういう心の伝統が、何かしらメモリアルな物品を捨てがたくしているのではあるまいか。
実際、私のような戦後生まれの者でも、どっかの会社からもらった創立○○周年記念のつまらないガラスの置き物なんかをゴミ袋に入れる時には、ちょっと躊躇する。
意識しないにしても、物品に宿る精霊に対し気がとがめているのだろう。
困ったことに、日本人は、物品に対し非情になれないのである。
非情になるにはどうすればいいか。
これについては日本を代表する経済学者で整理法の達人として知られる野口悠紀雄先生の方法が面白い。
先生は本を捨てるために、棚を利用していて、片方からどんどん新しい本を入れ、もう片方からどんどん落として捨てるのだという。
もちろん、必要な物は柵に残すのだが、絶対に棚のキャパシティ以上にはしない。
この野口流の無理矢理整理法を開いて、先生は自分の中に流れる物神崇拝の伝統を意識的に断ち切るため、こういう非情なやり方をわざとしている、と思った。
ついで収納について。
日本人は、野口先生のように生きる姿勢の一つとして整理に取り組んでいる人を除くと、物を整理するとか、しかるべきところに納めるとかの感覚が、これを″収納感覚〟というなら、それが乏しいのではあるまいか。
未発達といってもいい。
収納感覚の乏しさには、日本の住宅の伝統が深く関係しているといわざるをえない。
日本の住宅に住んできたからこそ、日本人は整理整頓の術を学ぶことができなかった。
わが身の来し方を振り返り、目の前に広がる諸物散乱の光景を見るにつけ、そういわざるをえない。
もし、読者の皆さん方の家の中が散らかっていたとしても、それは皆さん自身の責任ではなく、あくまで日本列島で生まれ育った宿命なのである。
なぜか。
日本人が物をどのようにしまってきたかを考えてみよう。
源氏物語絵巻など古い絵巻物の室内の光景を思い出してもらうと分かるが、室内に物品がないし、収納家具も見当たらない。
この傾向はずっと続き、現在でもちゃんとした和室においては収納家具や物品を排除する。
わずかに、床の間に花びんや文箱を点散させるばかり。
それにくらべ、ヨーロッパや中国はどうかというと、たとえばヨーロッパのどこの国でもいいから王様や貴族の家を見ればいいが、室内には飾り棚やら本棚やら食器棚やらの収納家具がこれ見よがしに置かれている。
収納家具だけでなくイス、テーブルなどなどの家具、調度の類が充満し、それらがインテリアの決め手となっている。
さまざまな物品、家具調度を室内に取り込み、それをいかに上手に美的かつ機能的に配列するかが室内構成の根本だった。
生まれながらにそういう根本を学ぶのだから、当然のように収納感覚が身に付く。
字を覚え、本を読むのと同じように、一つの教養として身に付けてゆく。
だから、欧米においては室内に物品が散らかるというのは、無教養のしるしとしてとらえられる。
身の回りの物品のコントロールもできないようなフシダラなヤツ。
日本の室内には物品はない。
本当はあるのだが、隠されていた。
どこにか。
納戸とか倉の戸の向こうの暗がりの中に。
タンスや長持ちといった収納家具はあるのだが、それらは人目に付かない暗がりに置かれた。
収納家具も物品も、日陰の身だったのである。
日陰の身でも、その総量が少ないうちは散乱問題は起きなかった。
納戸や押入れのようなどこかちょっとした場所に隠して置けば済むのだから。
ところが、明治以後、というより一般の家庭では戦後の高度成長以後、長く続いてきた少量物品日陰の身システムは破綻を余儀なくされる。
電気釜、テレビ、オーディオをはじめとする各種家庭用電化製品、ブームとなった旅行の土産物などがドッと家庭に流れ込んでくる。
流れ込んでくるのは仕方ないとして、問題は受け止める人間の方で、流れ込んで来た物品をコントロールする感覚がないのである。
泳ぎ方も知らないのに物品の海に飛び込んだようなもので、おぼれるしかない。
そして、日本のおおかたの家々の今日の室内光景が生まれたのだった。
なんだか自己弁護のための一文のような気もしないでもないが、とにかく歴史的な宿命なのである。
では、二十一世紀に向けてどうすればいいか。
欧米の人々のように、〝室内光景は人生の大事″と考えるようにするしかあるまい。
そんなことを人生の大事と思いたくない人は、物品の海でおぼれつづけるしかないだろう。
私は、もちろん、おおかたの読者諸賢同様、おぼれつづける決意である。
凱テルポの正しい風水(風水)このごろ世間にはアヤシゲな風水が流行しているようなので、ひとつちゃんとした風水について語っておきたい。
といっても、なにぶん古代中国に根を持つ呪術的な世界だからアヤシさほどこまで行ってもつきまとうが。
せめて筋道だけはちゃんとつけて語ってみた。
風水には、方位の風水と地形の風水の二つがあることをまず頭に入れよう。
鬼門なんてのは方位の風水の代表で、日本の場合、ウシトラの方角うまり北東がそれにあたると昔から言われている。
おみくじを引くと、ク旅〟や〝家移り″の項に″東南はよし〟などと書いてあるが、あれも方位の風水のなれの果てだ。
地形の風水は、方位と関係なく、山の連なりと姿、川の流れ、水のたまり、のような大地の形状をテーマにするもので、風水的にみて良い場所にお墓を作ると御先祖様は浮かばれて、ひいては今生きてる人にも福が多い、なんて説明する。
家の前に池があると血筋が絶える、なんて俗説を聞いたことがあるし、実際、明治の中頃に造られた三菱の岩崎久弥邸では、新築にあたり、父の弥太郎が掘った池を埋めて芝生を生やしているが、これも小規模ながら地形の風水に由来すると考えられる。
古代中国に発する方位と地形の二つの風水のうち、日本では方位ばかりが優勢になってやがて家相に変質し、一方、地形の方は平安京の建設までが華で、あとは衰えまくってしだいに忘れられてゆく。
ちょっと前まで、日本では一部の人をのぞくと、風水なんて言葉すら誰も知らなかったし、土地や家についての呪術といえば家相に決まっていた。
方位(家相)の方は次の項でとっくり開かせるとして、ここでは、地形の風水を取り上げよう。
地形の風水の核心は、″気〟というコンセプトにある。
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